特殊伐採とは、樹木を根元から切り倒さずに伐採する作業です。

空師と呼ばれる技術者が、ツリークライミング技術を利用して木に登り伐採を行います。

日本で進化した特殊伐採は、世界からも注目を集める職人技です。

この記事では、特殊伐採の特徴や空師の仕事内容について紹介していきます。また、特殊伐採の需要が増えている理由について解説していきます。

ツリークライミング技術を利用した特殊な伐採

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特殊伐採とは、樹木を根元から切り倒さずに行う伐採です。

一般的な伐採では切られた樹木は横倒しになりますが、特殊伐採では樹木を倒しません。

切っても倒れないように、ロープやワイヤーで吊り下げて作業を行います。

国土が狭く傾斜地の多い日本では、特殊伐採でないと取り除けない木々が少なくありません。そのため、特殊伐採の技術は日本で進化してきました。

現在では世界からも注目を集める技術となっています。

スペースに余裕のある場所では、特殊伐採に高所作業車を使用することもありますが、そうでない場所では作業者が直接木に登ります。

このとき、活用するのがツリークライミングの技術です。この方法は、もともとアーボリストが開発したとされています。

アーボリストとは、樹木のスペシャリストです。森林や街路樹を管理したり、危険木を伐採したりといった樹木に関するさまざまな業務を手がけます。

アーボリストが高い木を管理するために編み出したのが、ツリークライミングの手法で木に登るスタイルです。

そして、そのスタイルを取り入れて進化させたのが日本の特殊伐採といえます。

不安定な高い木の上でチェーンソーを使用する特殊伐採は、経験によって得られた知識と高い技術のなせる業です。

まるで軽業師のような特殊伐採の作業者は「空師」と呼ばれることもあります。空に一番近い場所で作業する職業だからです。

次は、高所での特殊伐採を行う空師の仕事について説明していきます。

高所特殊伐採を行う「空師」の仕事内容とは

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空師の仕事内容は、樹木の剪定や伐採、そして伐倒や枯れ枝除去などです。造園業とも近い仕事ですが、職種的には林業にあたります。

民家の密集した地域や神社の参道のような狭い道、また車も入れないような急斜面や交通量の多い道路など。樹木を横倒しする余裕のない場所での伐採には、空師は欠かせない存在です。

空師の活躍する特殊伐採には、2通りのケースがあります。

1つは、クレーン車を使用するケース。

もう1つはすべてを人力で行うケースです。

クレーン車を使用する特殊伐採

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クレーン車を使用する特殊伐採は、次のような要領で行われます。

①ロープを使って木に登り、幹や枝に吊り具を取り付ける
②樹上で身体を安定させ、幹や枝をチェーンソーで切る
③切られた幹や枝をクレーンで吊り上げ、スペースのある場所まで移動させる

クレーン車を使用するケースでも、空師の役割は重要です。

不安定な樹上でチェーンソーを使い、枝や幹を切りクレーンで運べる状態に持っていきます。

クレーン車を使わない特殊伐採

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重機の入れないような狭い場所や傾斜地では、クレーンを使うことはできません。

そんな場所では、ロープや滑車といった道具を駆使して伐採した幹や枝を人力で下ろしていきます。

人力で行う特殊伐採は、次のような工程で進められます。

①吊り下げ用のロープやウィンチをセットする
②ロープを使って木に登る
③登りながら枝を切り、ロープを使って地上に下ろす
④木の頂上に近い場所から少しずつ幹をカットして、ロープやウィンチで地上に下ろす

人力で行う特殊伐採では、空師とグラウンドワーカーとの連携が大切になります。

グランドワーカーとは、地上作業をする職人。空師のサポートもグランドワーカーの大切な役目です。

樹上の空師に枝や幹を下ろすべき場所を指示したり、周辺の状況を伝えたりして、安全な作業に導きます。

空師がまず行うのは、木に登りながら下の方から枝を切る作業です。枝のサイズによっては、ロープを先にくくり付けて吊り上げながら切り離します。

これは「吊り切り」と呼ばれる作業です。

頂上近くまで登ると、空師は幹の吊り切りに取り掛かります。幹にロープをしっかり縛り付けてから、扱いやすい大きさにチェーンソーで切り出すのです。

伐採された枝や幹は、空師とグランドワーカーが連携してウィンチを使って下ろします。

立地によっては、樹上からそっと投げ落としたり、ロープワークを駆使して安全な場所まで空中移動させたりすることもあります。

このように、空師の仕事にはロープやウィンチといった道具が欠かせません。

次は、空師の道具や装備を紹介していきます。

クライミング用品も利用。空師の道具や基本装備

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特殊伐採の基本装備には、次のようなものがあります。

・ヘルメット 
・ハーネス(安全ベルト)
・ロープ
・カラビナ 
・プーリー
・ウィンチ
・スローウェイト
・スローライン
・昇柱器(クライミングスパー)
・小型チェーンソー
・ワイヤレスマイク

空師の装備には、クライマー用の道具が多く使用されています。

ハーネスは、ロッククライミングでも使用される安全器具。ロープを身体に結びつけ、墜落時のショックを和らげたり、懸垂下降の際に安定した姿勢を保つ助けになったりします。

カラビナもクライマー用で、アクセサリー用のカラビナとは強度が格段に違うものです。

プーリーとは滑車のことですが、登山やクライミング用のプーリーは、ロープで人や物を引き上げる際に役立ちます。

ウィンチはロープを巻き取る道具です。特殊伐採では、ヨット用のウィンチを使用することもあります。

スローラインは、ツリークライミングに使用される細めのロープです。スローウェイトという錘とセットで使用します。

スローウェイトを結びつけて投げ、高いところにロープを通します。

クライミングスパーとも呼ばれる昇柱器は、林業の枝打ち作業用に開発されたアイテムです。

安全靴や地下足袋などの上から装着して使用するもので、くるぶしの辺りに鋭い爪のようなものが付いています。木を登る空師の身体を支えとなる安全具です。

グラウンドワーカーとの連絡用に、ヘルメットにワイヤレスマイクを仕込むこともあります。

小型のチェーンソーを含めた装備の重量は、合計で10kgを超えることもあるそうです。

空師の装備には専用のものはほとんどなく、クライミング用品やヨット用の道具などが使用されています。

先駆者たちが経験をふまえ、使いやすいものを取捨選択してきた結果といえるでしょう。

特殊伐採の需要が増えてきている近頃では、国内外のメーカーで関連ギアの開発が盛んになりつつあります。

空師に必要な資格とは。危険度の高い樹上作業

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空師には、特に資格は必要ありません。理論上では、誰でも木に登って幹を切ることは可能となります。

でも、自然に育った樹木に登るのは危険を伴う作業です。

足の置き場もないような場所で体勢を整え、チェーンソーで太い幹を切るには、相当の技術と体力が必要になります。

資格が必須ではないとはいえ、多くの経験と高い知識がなければできない作業といえるでしょう。

ただし、空師に限らず業務としてチェーンソーを扱うには、資格が必要です。

資格取得にはペーパーテストではなく、20時間ほどの特別教育を受けます。特別授業の内容は、伐木の方法やチェーンソーの操作方法、整備方法など。

というのは、チェーンソーを使う伐採は、年間数件の死亡事故も起こる危険な作業だからです。チェーンソーの使用で振動障害を起こす危険もあります。

空師を生業とするのなら特別教育を受講して、チェーンソーを安全に使用するための知識を身に付けておきましょう。

また、日本のアーボリストともいえる樹木医には資格が必要とされています。

樹木医の仕事は、樹木の保護や管理、診断、治療など。樹木医の資格試験を受けるには、7年以上の業務経験が必要です。

特別伐採の需要が増えている3つの理由

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特殊伐採の需要が増えている理由には、次のようなものが挙げられます。

・日本の地形に適している
・街路樹の老木化、大木化が増えている
・異常気象が頻発している
それぞれ詳しく説明していきます。

日本の地形に適している

特殊伐採は、重機が入れないような狭い場所や傾斜した場所でも行えます。

狭い場所が多く、傾斜地の多い日本だからこそ発展した技術といえるでしょう。

たとえば、マンションと隣地との間のような狭い場所では、周囲に危険が及ぶため倒木を伴う伐採は不可能です。

細い神社の参道や急斜面といった車も入れない場所なども、特殊伐採でないと樹木の管理ができません。

道路沿いに立つ街路樹の伐採ならクレーン車を使えるかもしれませんが、樹木を切り倒すには周辺道路の封鎖が必要となるでしょう。

その点特殊伐採なら、周りの建造物や人に被害を与えずに作業できます。安全に作業できることが、特殊伐採の需要増加の理由です。

また、クレーン車を使用しない特殊伐採には、騒音が少ないというメリットもあります。庭木を伐採しても近所迷惑になりにくいため、特殊伐採を選ぶ人も多いようです。

異常気象の増加

異常気象の頻発も、特殊伐採の需要が増えている原因の1つです。

近年では、毎年のように日本各地で異常気象が起こっています。大型の台風や豪雨で樹木が倒れたり、枝が折れたりする被害も少なくありません。

倒木や折れた枝の落下が原因で建物が壊れることもありますし、最悪の場合は人命にも関わります。折れた木や枝が河川の中に落ちて水をせき止め、氾濫を引き起こしてしまうこともあるでしょう。

そのようなことが起きる前に、防災として伐採を考える人が増えてきています。

そして、民家や河川のそばといった場所には重機が入れないことも多いため、特殊伐採の依頼も増えているのです。

樹木の老化・大木化

全国的に、街路樹や公園樹などの老木化・大木化が進んでいることも、特殊伐採の需要増加の要因です。

というのは、日本のあちこちで土地開発が盛んになり始めてから50年近くが経過しようとしているからです。

開発当時に植樹された街路樹や公園樹は、老木や大木となり、強風による倒木や落枝の危険の高い「危険木」となり始めました。

多くの自治体では危険木となった樹木の撤去や間引きを、計画しています。

街路樹や公園樹といった人通りや車通りの多い場所での伐採を安全に行うため、特殊伐採が求められているのです。

まとめ

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特殊伐採は、狭い場所や重機が使えない場所でも行える伐採です。

空師と呼ばれる技術者が、ツリークライミングの要領で木に登り行う伐採は、類まれなる特殊な技術。

狭い日本だからこそ進化した、世界に誇れる技術といえるでしょう。